個別製品レビューの4台目は、PFU「HHKB Professional HYBRID Type-S・日本語配列/白」です。
メーカーの製品紹介:Happy Hacking Keyboard Professional HYBRID Type-S 日本語配列/白
この製品には日本語配列のものと、英語配列のものがあります。レビュー対象は英語配列の間違いじゃないのかと思われるかもしれませんが、間違いではありません。その理由は後述します。
お約束:記事の執筆にあたってはできるかぎり検証しましたが、誤りがないことを保証するものではありません。購入にあたってはご自身の責任で判断していただきますようお願いします。
製品概要
例によってチェックポイントから順に見ていきます。
キー数とサイズ:コンパクト型です。US配列とJIS配列のモデルでは、キーの数や配置が少なからず異なります。
Fnキーは左下の隅にあるので、頑張れば左手の小指の付け根で押せる位置にあります。筆者は半年使っていますが、ホームポジションを崩す必要があるのでまだ慣れません。ただし、キーマッピングを変えて親指が届くところにFnキーを置くことはできます(後述)。
形状はストレート型で、しっかりとしたつくりです。スタンドを立てなくても表面には本体自体に傾斜があるデザインですが、平たい机の上であれば、底面に組み込まれているスタンドを立ててさらに2段階の傾斜を設定できます。
キーピッチは19.05mmです。Pキーの右側にある2列の記号キーのみ、わずかに幅が狭いような気がしますが、気のせいでしょうか。ただし、タイプしていて気になる程度ではありません。
電源は単3乾電池2本です。収納部分が半ば飛び出すような形になっています。タイプしているときは見えないので、そのぶんだけ奥行きが短く見えます。電源のオン・オフは、専用ボタンの長押しで行います。
Bluetoothのバージョン:4.2LEに対応しています。通信は安定しています。Bluetoothで4台、USBで1台、合計5台の端末と繋げられます。接続先を切り替えるには、Fn+Control+1~4/0キーを押します。
ちなみに、USB接続するときも電源を入れる必要があります。電池が切れていると使えません。
キー配列は、USベースの製品と、JISベースの製品があります。筆者はJIS配列を購入しました(後述)。
iPad OSには正式に対応しています。ほかに、macOS、Windows、Androidがサポートされていますが、US・JISのキー配列を変更する仕組みはありません。
本体を持ったときの感じ:
①頑丈さ:膝に乗せてタイプできるほどの安定感があります。
②外装:個々のキーの側面に至るまで安っぽさはありませんが、良くも悪くも実用一点張りという印象です。白地に黒文字のデザインは色気がなく、持ち歩けば汚れも目立ちそうですが、視認性を優先して白の印字ありモデルを選びました。印字サイズが大きい点はありがたいです。
③重量感:乾電池を除いて540グラムあります。エネループを入れた状態で実測したところ607グラムでした。筆者が使っているiPad Air 4はケースとApple Pencil 2を加えて744グラム、iPad mini 5はケースを加えて436グラムですので(いずれも実測)、10インチサイズならほぼ本体2台分の重さになるし、miniなら本体よりも重いものを一緒に持ち歩くことになります。
④安定性:ストレート型ですので安定性に問題はありません。
キーを押した感じ:
①構造:静電容量無接点方式と呼ばれるものです。底付きしなくても打てるので、打ったときのカツーンという音がしません。詳細はメーカーのWebを参照してください。
②ストローク:3.8mm。数字だけ見ると深く感じるかもしれませんが、静電容量無接点方式のおかげか、それほど深く押しているという印象はありません。
③押下圧:45グラム。この手の製品としては標準的です。
④静音性:「Type-S」のSはSpeedとSilentのSだそうで、静音性もセールスポイントの1つになっています。印象を擬音で表すと、カツカツというほど響かず固めで、カタカタ、コトコトというところです。はじくように叩くと当然音が響くので、静音性を求めるなら押し方を工夫するとさらによさそうです。
筆者がメインで使っている静電容量無接点方式のRealforceと比べると、確かに静かです。ただし、キーを打った感じは固いというよりは乾いた印象があり、個人的にはもう少し柔らかさがほしいように思います。Realforceはこのような乾いたタッチではないので、構造の改良によるもの、あるいは、静音性を追求した結果なのかもしれません。
さすがに買い足す気はありませんが、機会があれば「(Type-Sでない)HHKB Professional」も触ってみたいところです。そちらはストロークも異なるので(4.0mm)、タイプした感覚も違うのかもしれません。
なぜJIS配列を選んだのか
HHKBには、US配列とJIS配列のシリーズがあります。この記事ではiPadで使うことが前提ですから、本来はUS配列を選ぶべきです。しかし筆者は悩んだ末にJIS配列を購入しました。その理由は3つあります。
第1の理由は、「複数のOSで使いたいから」です。iPadの活用をテーマにしてキーボードを選んでいるとはいえ、筆者の職業上、やはりメインはデスクトップとノートのMacです。とくにデスクトップにはRealforceを繋げているとはいえ、高価なキーボードを買ってiPadだけでしか使わないのはもったいなく思ってしまいます。
実用面でも、MacBookで使いたいという意図はありました。MacBookのキーボードは全く好みに合わないし、冬は本体が冷たくてできるだけ触りたくないからです。
第2の理由は、「JIS配列でも、鉤括弧の位置だけ覚えればいいんじゃないか」ということです。
iPadで外付けキーボードを必要とする用途といえば、長文を書くことと、プログラムコードを書くことの2つだろうと思います。
プログラムコードでは多種の記号を使うので、もしもJIS配列を選ぶとすればUS配列を暗記しなくてはなりません。世の中にはそういう人もいるのでしょうが、わざわざJIS配列を選ぶ理由はないでしょう。
一方、日本語の散文を書くのであれば、使う記号はせいぜい鉤括弧と丸括弧くらいですし、丸括弧は鉤括弧を打って変換すれば出てくるので、少なくとも鉤括弧キーの位置だけ覚えればよさそうに思えました。数式が頻繁に出てくるような内容を書くのであれば別ですが、筆者が書くようなジャンルではさしあたって問題なさそうです。
第3の理由は、「JIS配列なら、親指に割り振る仕事が増える」ことです。
この半年ほどキーボードやかな漢字変換のことを意識的に考えていたのですが、親指はもっと仕事をすべきだと思います。
親指は、Macであれば「スペース」「かな」「英数」「Command」キーあたりを受け持つのが一般的でしょう。人によってはOptionキーや右のCommandキーも打てるらしいですが、筆者は打てません。それでも、US配列には「かな」「英数」キーがないので、ただでさえ仕事の少ない親指からさらに仕事を奪うことになります。
「かな」「英数」キーがあってもほかの指の負担を減らすほどではないと思うかもしれません。ここで生きてくるのが、HHKBのキーマッピング機能です。これは後で述べます。
これらの判断はもちろん個人的なものですので、「iPadでもJIS配列を使うべきだ」とか「iPadでもJISがおすすめ」などと言うつもりはありません。とくに、ほかの端末で使い回すことを考えないのであれば、素直にUS配列を選ぶべきでしょう。
しかし、MacやWindowsも含め、ほかの端末でも使い回すことを考えると、自分の用途としてはJIS配列を選ぶほうがよさそうだと判断しました。HHKBを使い始めてまだ半年ですが、失敗ではないと思っています。
ディップスイッチの設定
本体裏には6個のディップスイッチがあり、機能を変更できます。環境設定とか、カスタマイズのボタンと似たようなものですが、頻繁に変更するものではありません。スイッチを変更したら電源を入れ直す必要があるからです。
iPadで使うときに変更したいスイッチは2つあります。なお、デフォルトはすべてオフです。
1番めのスイッチは、オフにすると「Winモード」、オンにすると「Macモード」になります。Macモードにすると、「変換/無変換/Alt/Win」キーが、それぞれ、「かな/英数/Option/Command」キーになります。MacモードのキーはiPad OSでもそのまま使えます。
なお、このWin/Macモードの切り替えは、Fn+Control+W/Mキーでも行えます(この方法は本体裏のシールには書いてありませんが、説明書には書いてあります)。電源をオンにしたまま変更できますし、ディップスイッチの設定よりも優先されるので、WindowsとiPadを併用する方は覚えておくと便利です。
5番めのスイッチをオンにすると、CommandキーとOptionキーの位置を入れ替えます。1番めのスイッチをオンにするだけでは普通のMacと逆の位置になってしまうので、Mac併用派の筆者は当然オンです。
この機能はWin/Macモードのようにキー操作だけで入れ替えられないので、「どうせiPadでCommandだのOptionだの打つことはないからオフ」、「Windowsにキー割り当てユーティリティを入れて位置を入れ替えるからオン」、などの割り切りが必要になるでしょう。ほかにやり方はありそうな気はしますが、まだ調査中です。
キーマッピングの設定
HHKB Professionalでは、専用のユーティリティを使ってキーの割り当てを変更できます。iOSでも4つのキーの機能を入れ替えられますが、このユーティリティでは左下のFnキーなど予約済みのキーを除いたほとんどのキーを入れ替えられます。
この設定はOS内ではなくキーボード自体に保存されるため、1度行えばほかの端末と繋いでも機能します。つまり、Karabiner-Elementsのような高機能なキー割り当てユーティリティのないiPad OSでも、キー配列をほとんど好き放題にカスタマイズできるわけです。これはキーマップをキーボードへ保存できる製品でなければできないことです。
筆者の環境では必要ありませんが、他人や職場の端末を使うときも、端末には何も設定せずに自分好みのキーマップを設定できるので、利用スタイルによってはもせずに繋げただけで利用できる点も人によってはうれしいポイントでしょう。
なお、このユーティリティを使うには、MacまたはWindowsとUSBで接続し、あらかじめOSと同じモードへ切り替えておく必要があります。
次の2つの図は筆者の設定画面です。1つめは通常の機能、2つめはFnキーと同時押ししたときの機能です。上のキーボード画像の左下にあるFnキーをクリックするたびに、設定画面が切り替わります。
それぞれ、図の上にあるのが割り当て結果で、下にあるキー一覧から目的のキーを上のキーボードへドラッグ&ドロップして設定します。最後に設定結果をキーボードへ書き込んで完了です。設定内容はファイルとして保存できます。
図ではいろいろ設定していますが、ここでのポイントは次の3つです。
A. 「英数」キーに「Control」を割り当てる。
B. 「Fn」+「かな」キーに「英数」を割り当てる。
C. PCの「ひらがなカタカナ」キーに「Fn」キーを割り当てる。
(ちなみに、Fn+E/S/D/Fキーに上下左右の方向キーを、Fn+;キーにBackSpaceキーを割り当てているのはMajestouch MINILA-R Convertibleに合わせたもの、Fn+方向キーにHome/End/Page Up/Page Downキーを割り当てているのはMacBookに合わせたものです)
Aは前者は最近筆者が気に入っているカスタマイズで、左手小指の負担を減らすとともに、Control+A/Q/Zキーを打つときにホームポジションを崩す必要をなくすものです。
Bは、Aのためになくなった英数キーを割り当てるものです。
Cは、仕事の少ない右手親指を働かせるためのものです。これまでこのキーを押す習慣がなかったのですが、左手親指だって「英数」「Command」キーの2つを受け持っているのだから、右手親指にも「かな」キーともう1つ受け持たせようというねらいです。
いずれもまだ体になじんでいませんし、キーマップに関してはまだ模索中ですので設定内容は変更する可能性がありますが、いずれにしてもHHKBにキーマップの機能があるからこそ、模索することも可能になります。
個人的な使い方
4台までの端末に接続できるので、冬場には本体の冷たさが気になるMacBook ProとWindowsノート、サブのMac mini、それにiPad Air 4とつなげています。いまのところ、MacBookとiPadで半々というところです。
購入して半年になりますが、まだまだ使い方を究める余地がありそうです。
結語
キーマッピングのカスタマイズをキーボード側に保存できる製品を買ったのは初めてでしたが、想像以上に快適です。MacではKarabiner-Elementsを使えばかなり徹底したカスタマイズができますが、iPadでは4つのキーしかカスタマイズできないことがずっと不満でした。HHKBのキーマッピング機能は、これを解決してくれます。
HHKBは大変価格の高いものですが、静音性や携帯性とともに、キーマップユーティリティに価値を見出せるかどうかが鍵ではないかと思います。
そこまでカスタマイズするのであればすべての端末を1台のHHKBだけで使えば理想的なのでしょうが、もう少し押下圧が強く、柔らかさがあるタッチのほうが好みなので、いまのところRealforceを置き換えるには至っていません。
iPad・Windows併用時の設定については、また改めてとりあげます。いくつかやってはみたものの、これぞという設定をまだ見つけられません。
機種選びについて
ついでにHHKBの機種選びについても触れておきます。
ラインナップを見るとバリエーションが多くて迷いますが、選択のポイントは、グレード、キー配列、カラーリングの3点です。これが決まれば、購入すべき機種も決まります。
生産終了のものを除けば、グレードは3種類です。USB接続のみでキーマップ変更をできないのが「Classic」、Bluetooth対応でキーマップを変更できるのが「Hybrid」、さらに静音性を加えたのが「Hybrid Type-S」です。
キー配列は、日本語と英語があります。方向キーの有無や、右側のFnキーの位置なども異なります。
カラーリングは、白地に黒文字と、黒地に黒文字(「墨」)があります。黒地に白文字ではないので注意してください。墨モデルの見た目は格好良さそうですが、キー配置の暗記や視力に自信がないのでやめました。Classic以外の2グレードは、英語配列に限り、白地の無刻印と、黒地の無刻印もあります。結局、「白地に黒文字」以外は特殊なカラーリングですので、購入前に製品写真を徹底的に見ることを強くお勧めします。