この連載コラムでは、Scrivener for iPadのユーザーが外付けキーボードを選ぶときに、どのような点に注意するとよいか、筆者自身の経験を中心に紹介していきます。Scrivenerユーザーの皆様の参考にしていただければ幸いです。
なお、この記事に登場する製品はすべて自費で購入しています。
はじめに──キーボード選びの難しさ
iPadで原稿を書くというと第1にスクリーンに表示される仮想キーボード、第2に音声入力があります。また、近年はQWERTYキーボードよりもテンキーのフリック入力を好むユーザーも増えていると言われますし、手書きでかな漢字変換できる日本語入力アプリを使うのもおもしろいものですが、Scrivenerで文章を入力することを前提にするのであれば、やはり物理的なQWERTYキーボード、つまり、外付けキーボードを使うのが主流でしょう。
一般にPC用のデバイス選びは、個人ごとのスタイルに近いものほど難しくなります。用途や予算に加えて、好みや習慣といった要素が強く反映されるからです。たとえば、ディスプレイよりもキーボード、キーボードよりもマウスのほうが、個人のスタイルが強く反映されます。また、あるデバイスに対して過度に強いこだわりを見せる人もいれば、まったく頓着しない人もいます。それもまたスタイルと言えます。
そのため、誰かがベタ褒めした製品であっても、自分にとってはまったくそぐわない場合もあれば、その逆の場合もあります。ゆえに完全に中立的な記事を書くことは不可能です。もちろんこの記事も決して鵜呑みにしてはいけません。
そこでここでは筆者自身のスタイルを率直に表明し、選択の根拠を示すことで、読者諸氏におかれては読者自身のスタイルとの違いを意識しつつ、参考にできる点はそのまま参考にしていただき、参考にならない点は無視するなり、反面教師として扱うなりしていただければと思います。
もっと具体的に言えば、各製品の機能を参考にしつつ、自分なりのチェックリストを作るつもりで読んでいただくことをおすすめします。場合によっては安い買い物ではないので、製品選びに際してチェックリスト作りは重要です。
あらかじめ注意しておきたいのは、スタイルは不変のものではないということです。これこそ自分のスタイルと思っていたことが慣れでカバーできることもあれば、想像以上に変えられない場合もあります。自分のスタイルを知ることも、スタイルにこだわることも重要ですが、スタイルを変えることもまた重要であるとも言えるでしょう。
キーボード選びの基本方針
キーボードの選定にあたっては、次の点を意識しました。
①1台のキーボードを複数の端末で使い回せること ……1台のキーボードをiPad専用にできれば互換性を考えずに済みますが、最近のBluetoothキーボードは複数の端末で利用できるマルチペアリング対応が一般的ですので、1台のキーボードをMacやWindowsと使い回すことも考えます。
②一般的なPC用キーボードとの違いが少ないこと ……メインの端末で使っているキーボードとの違いが少なければ、ユーザー自身の従来のスタイルをあまり変えずに済みます。「iPadこそメイン端末」という方もいると思いますが、ほとんどの方のメイン端末はMacやWindowsでしょう。
③静かにタイピングできること ……自宅内や事務所内だけでiPadを使う方もいるでしょうが、屋外へ持ち出したり、喫茶店や特急列車などの公共性の高い空間で使う方もいるでしょう。その場合、タイピングの音がうるさいキーボードは避けたいものです。自宅内だけで使う場合でも、家族への迷惑を避けるという点では、静かであるほうがベターでしょう。
④できるだけ軽く、小さいこと ……iPadのサイズや重量は、iPhoneよりは大きく、ノートPCよりは小さいことが特徴ですが、外部キーボードをあわせて持ち歩くということは荷物を1つ増やすということですから、軽く、小さいほうが好ましいと言えます。
⑤日本語入力がしやすいこと ……Scrivenerで使うことを前提とするため、(プログラムコードやターミナルコマンドではなく)日本語の散文を入力することを第一に考えます。また、iPadの外付けキーボードではサードパーティー製の日本語入力アプリが使えないため、OS内蔵の日本語入力機能を使うことが必須要件となります。
筆者自身について
筆者自身がいまメインの環境にしているのはMac miniで、キーボードは東プレ製「Realforce 91U」を10年以上使っています。これは2万円近くするもので、キーボードに対してその程度のこだわりはあるということです。なお、Windowsで職業的な原稿を書いたことはありません。
筆者自身のキーボード遍歴を個人サイトで公開しています。もしもご興味のある方はそちらを参照してください。
→「キーボードの話(1)」(全7回)
(つづく)