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Scrivener for iPadユーザーのためのキーボード選び──(10)FILCO「Majestouch MINILA-R Convertible」

個別製品レビューの5台めは、FILCO「Majestouch MINILA-R Convertible SILENT静音軸・英語・Sky Gray配色・ASAGI」(以下「MINILA-R」)です。HHKBではMacと併用するためにJIS配列を選びましたが、今回は素直にiPad用としてUS配列を選びました。

製品情報

MINILA-Rには4つのカラーバリエーションがあり、このモデルは直販のみです。モデルによっては量販店でも購入できます。

お約束:記事の執筆にあたってはできるかぎり検証しましたが、誤りがないことを保証するものではありません。購入にあたってはご自身の責任で判断していただきますようお願いします。

概略

まずは例によってチェックポイントを見ていきましょう。

キー数とサイズ:コンパクト型。今回筆者が購入したUS配列ベースのほかに、JIS配列ベースのモデルがあります。シリーズの紹介サイトを見ると、どちらも特殊な配列であることがわかります(後述)。

形状はストレート型です。HHKBとは異なり飛び出た部分がなく、キーボードの面にもカーブがないので、直線が強調された、言うなれば無骨なデザインです。

類似製品と比べて本体手前のキーがやや高い位置にあるので、アームレストが欲しくなります。

写真)HHKBと比べても手前側がやや高い

キーピッチは19mmです。バックスラッシュを除き、文字キーはすべて同じサイズです。もともとキー数の少ないUS配列ですので、一部のキーの幅を狭めて押し込む必要もないようです。

電源:単3乾電池2本。USB接続の場合は、電源どころか電池を入れなくても動作します。電源スイッチはスライド式で、HHKBのような長押しではありません。

Bluetoothのバージョン:5.1。切り替えも早く、反応は良好です。Bluetooth接続で4台、USB接続で1台を接続し、本体上端にあるLED兼ボタンを押して切り替えられます。たいていの製品では、接続先の切り替えにはFnキーといずれかのキーを同時押ししますが、MINILA-Rは専用ボタンなので操作に迷うことがありません。電源投入の直後は、最後に接続していた番号のLEDを点滅してくれるのも親切です。

公式にサポートされているOSはWindowsのみです。Mac専用モード用へ切り替えるディップスイッチはありますが、iOSもmacOSもサポート対象ではありません。このため、iPadとの接続で何かトラブルがあっても保証はされません。

本体を持ったときの感じ:

①頑丈さ:直線的なデザインもあって、頑丈な印象が強調されます。膝の上に置いても難なくタイプできます。

②外装:本体(フレーム)の色はマットで、ざらついた手触りがするので滑り止めにも役立ちそうです。キートップの部品はややテカリがあります。

③重量感:商品紹介のWebページには680グラムとありますが、実測したところ735グラムありました(軸によって違いがあるかどうかはわかりません)。エネループ2本を入れると800グラム近くなるので、ケースに入れてApple Pencilをつけた状態のiPad Airとほぼ同じです。つまり、重さだけを見ると、iPad Airを2台持ち歩くのと同じになります。HHKBと比べても重量感があります。

④安定性:筐体もゴム足もしっかりしています。1段階だけですが、スタンドを引き出して本体に傾斜をつけられます。

キーを押した感じ:

①構造:メカニカルスイッチ。直販のみで販売されているものを含めると5種類の軸がラインナップされていますが、筆者は静音性を重視して「静音赤軸」を選びました。

②ストローク:静音赤軸は3.7mmです。キーを押し込んだとき、HHKBは乾いた印象でしたが、スイッチのためか、MINILA-Rにはわずかに柔らかな反発感があります。

③押下圧:商品紹介のWebページや、本体付属の説明書には記載を見つけられませんでしたが、「CHERRY MXスイッチとは?」(FILCO)によれば45cN ±15cN(センチニュートンと読むらしい)とありました。筆者の感覚としては、HHKBよりもわずかに重いような気がします。

④静音性:メカニカル構造ですが静音赤軸を選んだため、かなり静かです。筆者にとってメカニカルといえばADB時代の初代Apple Keyboardのようにカッツーンと響くイメージでしたが、これはいまでいう青軸に当たるようです。

ただし、弾くように打てばそれなりに響きます。また、深夜など周囲がとくに静かな環境では、静かとはいえキーを打った後にカーンという残響音のような感覚が耳に残ります。多くのメカニカルキーボードで伝統的に見られるものですので、仕方のないものかもしれません。

もっとも、残響音(?)は、小さくBGMが流れていればほぼわからない程度ですので、キーを強く叩かなければ、そして混んでいなければ、喫茶店でも音で悪目立ちする恐れは小さいでしょう。逆に言えば、周囲が静かであれば、コワーキングスペース内の個室に入っていてもそれなりに気を遣うほうがいいかもしれません。興が乗ってくると強く打ってしまうような方は(私です)、はじかないよう、意識的に軽く押し込むくらいのつもりで打つとよさそうです。

HHKB Type-Sと比べてどうか気になると思いますが、周囲にわずかでも環境音があれば大差ないだろうという印象です。無響室へ持ち込んで数字で比較すれば差は出そうですが、実際に使う環境を考えるとこだわるほどではなさそうに思えます。

小さなことですが、本体だけでなく、傾斜をつけるためのスタンドにもゴムがついているので、机に直接置いても机を響きにくくする工夫がされています。静音性にこだわるなら、キーそのものやキーボードの本体の反響音だけでなく、直置きしたときの机の反響音も注意すべきです。ちなみに、HHKBのスタンドには、ゴムはついていません。

写真)傾斜をつけるスタンドにもゴムがついている

Fnキーの使いこなし

MINILA-Rの特徴はなんといっても、独特な位置にあるFnキーです(製品主体に見ればもう1点、Escキーの位置も独特と思いますが、viやEmacsのユーザーにはともかく、ScrivenerユーザーはそれほどEscキーを使わないと思うので、今回はとりあげません)。

スペースキーの左右にある、JIS配列の「変換」「無変換」キーのように見えるのが、Fnキーです。「Fn」の印刷はキーの側面にありますが、何か別のキーと同時押ししたときにFnとして機能するわけではないので、本来は上面にあるべきと思えます。

写真)独特な位置にあるFnキー

たいていのキーボードでは、Fnキーとの同時押しにさまざまな機能を割り当てているにもかかわらず、Fnキーは左下や右下の端のほうにあるため、ホームポジションを崩さないと押しにくい位置にあります。一方MINILA-Rでは、Fnキーをスペースキーの両隣に配することで、ホームポジションを保ちつつ、親指へ仕事を割り振るのに役立っています。

MINILA-RではUS配列・JIS配列ともに方向キーがなく、FnキーとE/S/D/Fキーとの同時押しになります。方向キーの有無はユーザーによってニーズが大きく異なるところでもあり、HHKBでもUS配列では省略され、JIS配列では配置されています。

ただ、ホームポジションを守るという面では、方向キーがないことも悪くはありません。単独の方向キーを押そうとするとホームポジションを崩すことになりますが、MINILA-Rでは右手親指で右Fnキーを押しつつ、左手で文字キーを押すことになりますが、どちらも無理なく押せますし、仕事を両手に分散できるからです。

写真)方向キーはFn+E/S/D/Fキー

ちなみに、HHKBではUS配列・JIS配列ともに、FnキーとPキーの右側にあるキーを同時押しすることで方向キーになりますが、これも結局はホームポジションを崩すことになります。そこで筆者はMINILA-Rと同じE/S/D/Fキーに方向キーを割り当てるようカスタマイズしました。HHKBをMNINILA-Rに合わせたわけです。

また、FnキーとK/キーに、Home/End/Page Up/Page Downキーが割り当てられています。これはHHKBと同じ位置です。

なぜJIS配列を選ばなかったのか

HHKBはあえてJIS配列を買ったのに、MINILA-RはUS配列を買いました。これには2つの理由があります。

理由の1つめは、そろそろUS配列のキーボードを新調したかったという、まったく個人的なことです。US配列ではぷらっとほーむ「FKB8579」という古いキーボードを持っていますが、これはUSB接続です。ここらで1台くらいはiPad用に本格的なUS配列のキーボードを持っておきたかったというわけです。

もう1つの理由は、これが最大の理由ですが、JIS配列のMINILA-RではCommandキーの位置が遠くて、自分には無理だと思ったことです。

MINILA-Rのキー配置をスペースキーから左へ向かって見ていくと、US配列では、スペース、Fn、Alt、Win、Controlです。筆者はディップスイッチでキーを入れ替えるとともにMacモードにしているので、スペース、Fn、Command、Option、Caps Lockとなります。

写真)スペースキーから左方向へ。キーはMac用のものと入れ替えた

JIS配列ではこれに「無変換」キー(Macモードでは「英数」キー相当)が加えられますが、その位置がFnキーとCommandキーの間になるので、そのぶんだけCommandキーが外側へ押し出されます。結果、US配列ではXキーの下あたりにあったCommandキーは、JIS配列ではZキーの下あたりになります。これでは親指が届きません。習慣づければいいのかもしれませんが、筆者が使っているキーボードでCommandに相当するキーがZキーの下にあるものはなく、キーボードを持ち替えたときに苦労しそうです。

写真)MacBookの左CommandキーはXキーの下あたりにある

スペースキーの周囲で親指を動かすことだけに注目すると、US配列のMINILA-Rは、JIS配列の「かな」「英数」キーをFnキーへ入れ替えたものと同等に扱えます。つまり、普段MacでJIS配列を使っている筆者には、US配列のMINILA-Rは併用しやすい配置であるといえます。

ただし、これはあくまでも筆者自身の環境です。たとえば、iPadとWindowsを併用するユーザーであればどうでしょうか。そもそもCommandキーを使う習慣がなければ、キーの位置も気にならない可能性はあります。筆者がHHKBをMacでも使いたいがためにJIS配列を選んだように、MINILA-RをWindowsで使いたいがためにJIS配列を選ぶのも選択肢の1つになるかもしれません。

MacやiPadではCommandキーを非常に多用しますが、WindowsではWinキーもAltキーもそれほどには使いません。MINILA-Rは本来Windows専用の製品ですから、そういった流儀の違いが最下段のキー配置に現れているようにも思えます。

ディップスイッチとキーの交換

MINILA-Rはディップスイッチでいくつかのキーを入れ替えられます(個々のスイッチの機能は省略します。興味がある方は説明書を参照してください)。このとき、キーを機能と一致するようにキーを入れ替えられますが、キーを引き抜くための道具(キープラー)や、Macモードをオンにしたときに入れ替えて使う予備のCommandキーやOptionキーなどが付属します。iPadやMacは本来MINILA-Rのサポート対象外ですが、うれしい付属品です。

写真)ディップスイッチで機能を入れ替えたときのために、交換用のキーが付属する

個人的な使い方

MINILA-Rには発売告知のときから関心を持っていたのですが、特殊なFnキーの位置を見て、これを自分がどう使えばいいのかわからず、以来何度も気になりながらもずっと見送っていました。

このシリーズ記事を用意しながら改めてキーボードのことを考えていたときに、自分がiPadで長文を打つには最適なのではないかと気がついのが2020年末のことです。タイミング悪く在庫切れがでしたが、購入を決心してから3週間後に手元へやってきました。

いろいろと検討した結果、MacやWindowsとは併用せずiOSのみ、すなわち、iPad Air、iPad mini、iPhoneの3台で使っています。

まったく個人的な要望を言えば、右側のFnキーをControlキーにするディップスイッチがあったらいいと思います。Fnキーは左右どちらかにあれば十分ですし、ControlキーはWindowsユーザーにも価値があるでしょうし、親指の仕事を増やす方針はきっとMINILA-Rの設計方針ともたがわないように思えます。

しかし、それこそ変態キーボードと言われかねませんし、そういうことは配列をカスタマイズできるHHKBでやればいいことでしょう。MINILA-Rがソフトウェアでキー配列をカスタマイズできるようになると理想的ですが、すると値段もHHKB並みになるでしょうから難しいところです。

ただ、Caps LockはHHKBと同じ、Fn+Tabキーでも良かったように思います。

結語

そもそもMINILA-RはメーカーとしてiOSをサポート対象としていませんし、特殊なキー配列のため慣れは必要ですが、文字入力の間はホームポジションをしっかり守ることができるので、ひたすら長文を書くにはとても快適です。とくにiPadは画面サイズからいっても没頭あるいは没入しやすいので、ホームポジションから指を離さずに済むことは非常に重要だと思います。

Fnキーの位置は他社製品と比べれば確かに特殊ですが、親指で無理なく操作できますし、(執筆する文章のジャンルによりますが)iPadでは日英の切り替えをControl+Spaceキーで行えるので「かな」「英数」キーがなくてもたいして困りません。

「かな」「英数」キーがほしいのであれば、JIS配列モデルもよさそうです。iPadではMacほど頻繁にはCommandキーを使わないので、Commandキーよりも日英の切り替えを優先するというのであればこれもいい選択と思います。というか、自分自身が日英を頻繁に切り替える文章を仕事で扱っているので、実はJIS配列を買ったほうがよかったのかもわかりません。

US配列とJIS配列のどちらを選ぶにしても、「iPadのScrivenerで使うのに本格的なキーボードがほしい、多少は新しい流儀に慣れる気もある、でも3万円超えはさすがにちょっと……」というニーズには、MINILA-Rはいい選択になるように思います。筆者はそうなりました。

価格としては、直販価格で税込み17,380円・送料無料はむしろ安いほうではないかと思います。しかも軸やカラーリングにこれだけのバリエーションがありながら統一価格の選び放題です。カスタマイズできるキー配置は数個ですが、なにしろHHKB最上位モデルのほぼ半値です。

確かに絶対的な金額として、試しもせずに買うには腹をくくる必要のあるレベルです。だからこそ筆者自身、使い方は買ってから考えればいいとは思わず半年もためらっていたわけですが、キー配列やカラーバリエーションも含めて、徹底的に納得してから買えたのでよかったと思っています。

なお、一部のカラーバリエーションは量販店にも出荷されていますし、スイッチの感触を確かめるだけであればほかのFILCO製品を試すとよいでしょう(筆者はFILCO製品を買ったのは初めてですが、店頭ではさんざん触ってきました)。

購入を決断する前に、キー配置を何日もにらみ、自分がこれで長文を打てるかシミュレーションし、できると思えるかどうかよく考えてみましょう。また、ディップスイッチを切り替えたときの動作など、説明書はWebで公開されているので、迷っているならぜひ読み込んでください。

買い方

購入を検討する方のために、バリエーションの選び方を記しておきます。

シリーズの紹介ページを見ると数の多さに驚きますが、選ぶ基準は、軸、キー配列、カラーバリエーションの3つです。

スイッチは、茶、青、黒、赤、静音の5種類です。

キー配列は、US配列とJIS配列の2種類です。

カラーバリエーションは、①外枠、②キー側面と上面の組み合わせ、③文字キーとそれ以外のキーの組み合わせ、の3つがポイントです。たとえば筆者が購入したASAGIのUS配列は、A)すべてのキーの側面が濃いグレー、B)文字・数字キーがASAGIで機能キーが濃いグレー、C)文字・数字キーが濃いグレーで機能キーがASAGI(前者の逆)、の3種類があります。拡大写真をよく見て検討してください。

なお、すべての組み合わせが選べるわけではありません。また、一部のモデルは一般の量販店でも購入できますが、バリエーションのほとんどはメーカーオンラインショップのみの販売です。

個別製品レビューは今回で終わりにして、次回は、Bluetoothキーボード以外の選択肢を検討します。

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